「給料も悪くない、人間関係もそこそこ。なのに、なぜか意欲的な社員が辞めてしまう…」。そんな経験はありませんか?その謎を解く鍵が、心理学者ハーズバーグの「二要因理論」にあります。そしてこの理論は、「自律的な社員が会社を去る理由」を驚くほど的確に説明してくれるのです。
ハーズバーグは、仕事における満足と不満は、それぞれ別の要因によって引き起こされると考えました。満足と不満は一本の綱の上にあるのではなく、全く別の二本の綱なのです。
① 不満を「なくす」ための【衛生要因】
まず一つ目が、不満に関わる「衛生要因」です。これは、整備されていないと社員が不満を感じる要因です。
会社の政策や管理体制
給与、福利厚生
上司との関係、同僚との関係
労働条件、職場環境
これらは、言わば「あって当たり前」の要素。例えば、給料が極端に低かったり、上司がマイクロマネジメントばかりしていては、誰だって不満を抱きますよね。自律的な社員も例外ではありません。むしろ、意味のない規則や非効率な管理体制(衛生要因の欠如)は、彼らの自律性を阻害するため、人一倍強い不満を感じるでしょう。
重要なのは、衛生要因は満たされても「不満がなくなる」だけで、満足感やモチベーションが「高まる」わけではないという点です。給料を上げたからといって、仕事への情熱が無限に湧き上がるわけではないのです。
② 満足を「もたらす」ための【動機付け要因】
そして二つ目が、満足感に関わる「動機付け要因」です。これこそが、社員の満足感を引き出し、仕事への意欲を燃え上がらせる要因です。
達成感
承認されること
仕事そのものの面白さ
責任と裁量
昇進や成長
もうお気づきでしょうか。これらは自律的な社員がまさに求めているものと完全に一致します。彼らは、自らの裁量で(責任)、挑戦的な仕事(仕事そのもの)を成し遂げ(達成)、成長していく(成長)ことに、強い喜びを感じるのです。
結論:「衛生要因」を満たし、「動機付け要因」で心に火をつける
自律的な社員が会社を去る本当の理由。それは、多くの場合「衛生要因」の欠如による強い不満があるか、あるいは「動機付け要因」が圧倒的に不足しているかのどちらか、またはその両方です。
ケースA(離職直結型):マイクロマネジメントや不合理な社内ルール(衛生要因の欠如)がひどく、そもそも働く気力を削がれて辞めてしまう。
ケースB(静かに去る型):給与や環境に大きな不満はないが、任される仕事は退屈で、成長実感もない(動機付け要因の不足)。やりがいを求めて、静かに次のステージを探し始める。
彼らをつなぎとめるには、まず「衛生要因」を整えて不満を取り除き、安心して働ける土台を固めること。そして、それだけでは不十分です。彼らの心を本当に掴むには、挑戦と成長の機会、すなわち「動機付け要因」という名の“燃料”を絶えず注ぎ続けることが不可欠なのです。皆様の会社では、この二つの要因、どちらが足りていないでしょうか?
「社員にもっと主体的に動いてほしい…」
経営者や人事の皆様と話していると、そんなお悩みをよく耳にします。最近では「キャリア自律」や「キャリアオーナーシップ」なんて言葉も飛び交うようになりました。でも、この二つ、似ているようで実は少しニュアンスが違うこと、ご存知でしたか?今回はこの違いを、ちょっと面白い例えで紐解いていきましょう。
まず「キャリア自律」。これは、いわば「自分のキャリアの航海図を読むスキル」です。自分がどんな船(価値観や強み)に乗っていて、どんな海(社会や市場)を航海していて、そしてどこ(目標)へ向かいたいのか。それを自分自身で理解し、意思決定できる状態を指します。会社という船団に所属していても、「私はこのルートで進みたい」と自分の意志で考え、羅針盤を読める力、それがキャリア自律です。内省を通じて自己理解を深める、内面的な心の状態に近いかもしれません。
一方、「キャリアオーナーシップ」は、もう少しダイナミックです。これは「自ら船長として航海の全責任を負う覚悟」と言えるでしょう。航海図を読むだけでなく、実際に舵を取り、帆を張り、時には嵐にも立ち向かう。そして、その航海の結果がどうであれ「これは自分の航海だ」と責任を引き受ける。つまり、意思決定(自律)に加えて、具体的な行動と、その結果に対する責任まで含んだ、より力強く包括的な概念なのです。
整理すると、こんな感じです。
キャリア自律:「何をすべきか」を自分で決める状態・姿勢
キャリアオーナーシップ:「決めたこと」を行動に移し、結果も引き受ける当事者意識
キャリア自律という土台があってこそ、社員は自分のキャリアの「船長」であるというキャリアオーナーシップを発揮できます。
企業としては、まず社員が自分の航海図をじっくり読めるような時間と機会(キャリア研修や1on1面談など)を提供することが「キャリア自律」の支援になります。そして、実際に社員が「やってみたい」と手を挙げた時に、小さな船でもいいから任せてみる、挑戦を後押しする。そんな環境を整えることが「キャリアオーナーシップ」を育む土壌となるでしょう。
社員一人ひとりが自分の船の船長として、イキイキと大海原へ乗り出していく。そんな組織は、きっと変化という荒波も乗り越えていけるはずです。皆様の会社が、そんな素敵な船団になるためのお手伝いができれば、これほど嬉しいことはありません。
「自分の仕事は、本当に社会の役に立っているのだろうか?」
日々の業務に追われていると、ふと、そんな壮大な問いが頭をよぎることがありませんか。経営者の方であれば自社の社会的意義を、人事や総務の担当者の方であれば社員一人ひとりの働きがいを、考える中でこのテーマに行き着くことも多いかもしれません。
なんだか壮大なテーマに、思わず眉間にシワが寄ってしまいそうですが、少し肩の力を抜いて考えてみましょう。
心理学の世界に、マズローという学者が提唱した「欲求5段階説」というものがあります。人間には「生理的欲求」から始まり、最終的には「自己実現の欲求」に至る5つの欲求段階があるという考え方です。そして、この最も高次な「自己実現の欲求」の中には、「社会の役に立ちたい」「何か貢献したい」という想いが含まれていると言われています。つまり、社会への貢献を実感することは、人がより良く生きるための本質的な喜びの一つなのです。
最近よく耳にする「パーパス経営」という言葉も、これと無関係ではありません。これは、自社が「何のために存在するのか(Purpose)」という社会的な意義を明確にし、それに基づいて事業活動を行う経営スタイルです。会社のパーパスと、そこで働く一人ひとりの「こうありたい」という想いが重なった時、社員のエンゲージメントは飛躍的に高まります。
「社会貢献」というと、何か特別な活動をイメージしがちですが、決してそんなことはありません。あなたの会社の製品やサービスは、誰かの悩みを解決し、生活を豊かにしているはずです。人事や総務のお仕事は、社員が安心して働ける環境を整え、その先の家族の幸せをも支えています。
目の前のお客様からの「ありがとう」。同僚からの「助かったよ」。そんな日々の小さな感謝の積み重ねこそが、社会への貢献そのものなのです。
もし今、ご自身の仕事の社会的意義を見失いそうになっているなら、一度立ち止まって問い直してみてください。「この仕事は、巡り巡って、誰のどんな笑顔に繋がっているのだろう?」と。その答えが見つかった時、日々の仕事は、もっと色鮮やかで、誇らしいものに変わっていくはずです。
私たち幸セMeetsは、そんな皆さま一人ひとりがご自身の仕事に意味と誇りを見出すお手伝いをしたいと考えています。会社のパーパスと個人のキャリアが交差する点を見つける旅を、ぜひご一緒させてください。
組織には、時に目に見えない病が潜んでいます。その一つが「誤解」という病です。今日は、この病によって輝きを失いかけ、そして、ほんの少しのきっかけで劇的に回復した、ある社員の方のお話です。
先日、面談室でお会いした彼は、うつむき加減で、声もか細く、明らかに元気がありませんでした。私が将来の姿について尋ねると、彼はぽつりとこう言ったのです。
「3年後には、自分はこの世の中にいないと思っています」
私は背筋が凍る思いで、すぐさま人事担当の方に相談しました。話はすぐに部長、役員へと伝わり、組織として彼を支えるための緊急会議が開かれました。
しかし、この話の裏側を知った時、私は胸が締め付けられる思いでした。
実は、彼は同僚も認める「腕利き」のエースだったのです。誰よりも要領が良く、驚くべき速さで仕事を完璧にこなしていました。問題は、その「速さ」にありました。仕事が早く終わるため、彼は他の人より早く帰社することが多かった。その姿が、事情を知らない周囲の目には「あいつはサボっているのではないか?」と映ってしまっていたのです。
彼の卓越した能力が、逆に彼を孤立させ、心を蝕んでいた。これほど悲しいことはありません。
そこで私たちが取った行動は、決して大げさなものではありませんでした。
彼を特別扱いするのではなく、人事担当者は、すれ違う時に少しだけ気にかける言葉を増やす。部長や役員は、彼の仕事ぶりを疑いの目ではなく、信頼の目で見守る。そして私は、もう一度話を聞く約束をする。
やったことは、ただそれだけです。彼を見る「目」を、ほんの少し変えただけでした。
すると、驚くべき変化が訪れます。
後日、再面談に現れた彼は、まるで別人のように生き生きとしていました。目には力が戻り、その声には自信が漲っている。誤解という分厚い雲が晴れ、彼が本来持っていた太陽のような輝きが、ようやく顔を出した瞬間でした。
人は、大掛かりな制度や立派な言葉だけで動くわけではありません。
「あなたのことを見ているよ」
「あなたの頑張りを、私たちは知っているよ」
この、言葉にならないメッセージ、日々の小さな承認の積み重ねこそが、人の心に火を灯し、エンゲージ-メントの土壌を豊かにするのです。
経営者、人事担当者の皆様。あなたの会社では、社員の表面的な姿だけで、その人の価値を判断してしまってはいませんか? すれ違う時の少しの会話、会議での労いの言葉。そんな小さな関心が、くすぶっているエースを救う特効薬になるかもしれません。
人事・総務ご担当者の皆様、こんにちは!幸セMeetsの村瀬幸一です。
「社員のエンゲージメント、どうしたら上がるんだろう…」
「せっかく採用した若手が、すぐに辞めてしまう…」
「研修はやってるけど、正直、効果が見えにくい…」
毎日、組織と社員のために奮闘されている皆様なら、一度はこんな溜息をついたことがあるのではないでしょうか。心中お察しいたします。何を隠そう、私も多くの企業様と関わる中で、同じような課題に何度も直面してきました。
◆国も推奨する施策に見た光明と…突然の壁
そんな課題解決の強力な一手として、私は厚生労働省が推奨する「セルフ・キャリアドック」に大きな可能性を感じ、3年間、導入支援の専門家として活動してきました。これは、定期的なキャリアコンサルティングを通じて社員の自律性を促し、組織を活性化させる素晴らしい仕組みです。
「この素晴らしい取り組みを、もっと多くの企業に届けたい!」その一心で活動していたある日、ふと「この名称、ウチでも正式に使っていいものだろうか?」と厚生労働省に問い合わせてみたのです。すると、返ってきた答えは…
「No」
まさかのNG宣告。すでに登録商標として取得されているとのこと。大人の事情という名の壁にぶち当たり、私たちは新たな名称を考えることになったのです。
◆「i-テクセンス」に込めた、私たちの約束
しかし、この壁は私たちにとって大きな転機となりました。どうせなら、私たちの想いと支援の姿勢そのものを表す名前にしよう。そうして生まれたのが**「i-テクセンス」**です。
まず【 i 】。ここには、私たちの原点である4つの意味が込められています。
私 (I - Individual):主役は、働く「一人ひとり」。組織の前にまず「個」を見つめ、その人らしい生き方・働き方を尊重します。
愛 (ai - Heart):温かい心で伴走するパートナーであること。これは「幸セMeets」の根幹です。
会い (ai - Meet):人が「会い」、真摯に対話を重ねること。質の高い傾聴で、本人も気づかぬ想いを引き出します。
IT / Innovation:変化の激しい時代を乗り越える、未来を見据えた新しい視点をサポートします。
そして後半の【テクセンス】。これは、「Technique(技術)」と「Sense(感性)」を掛け合わせた私たちの独自の言葉です。
Tec (Technique) は、スキルや経験といった、客観的に示せる「目に見える力」。
Sense (Sense) は、価値観や情熱、潜在能力といった、その人だけの「目には見えない輝き」。
私たちの支援の神髄は、この「Tec」という縦糸と、「Sense」という横糸を、丁寧な対話によって美しく「織り上げる(ラテン語: texens)」プロセスそのものにあります。
個人にとっては、自身の強みを活かした、納得感のある「キャリアプラン」という一枚の布が織り上がる。
そして組織にとっては、一人ひとりの布が集まり、結びつくことで、会社全体のビジョンを描き出す、強固で美しい「組織力」という一枚のタペストリーが完成するのです。
◆貴社自身の「宝物」にするために
そして、私たちが目指すのは、この「織り上げる」作業を、いつか皆様自身の手で行っていただくことです。
i-テクセンスは、私たちが一方的にコンサルティングを行うだけでなく、企業内で自律したキャリア形成支援の仕組みを構築するための伴走型支援でもあります。最終的には、人事・総務の皆様や管理職の方々が、自社内でこの素晴らしい循環を生み出せるようになるのが私たちのゴールです。
そのために、私たちがこれまで培ってきたノウハウやオリジナルテキスト、セミナー原稿などは、すべて共有させていただきます。外部委託に頼り続けるのではなく、貴社自身が「人を育て、組織を強くする力」をその手に宿す。私たちは、そのための黒子であり、最強のパートナーでありたいのです。
この想いの詰まった名前、いずれは登録商標も…なんて野望も抱いています。
だから、全国の人事・総務ご担当者の皆様、一つだけお願いです。
この名前、とっても気に入っているので、どうか黙って使わないでくださいね(笑)。
もしご興味を持っていただけたら、ぜひ幸セMeetsまでお声がけください。一緒に、貴社だけの美しいタペストリーを「自ら織り上げる仕組み」を創るお手伝いをさせていただきます。
「若手の成長のために、新しい研修を導入しよう」「離職率低下のために、あの最新ツールは効果的だろうか」… 愛する社員のため、組織の未来のため、皆様は日々、様々な施策という名の「足し算」を検討されていることと思います。その情熱と努力には、本当に頭が下がります。
でも、少しだけ立ち止まってみていただけますか。その「足し算」、本当に「今」なのでしょうか。
先日、あるIT企業の社長からご相談を受け、若手社員の皆様とキャリアコンサルティングを実施しました。社長の悩みは「真面目に頑張ってはくれているが、どこか余裕がなさそうに見える。彼らの成長を加速させるために、新たな学びの機会を導入すべきか迷っている」というものでした。
いざ、若手の皆さんと1対1で対話を始めると、そこには鬼気迫るほどの「必死さ」がありました。日々押し寄せるタスクを、とにかくこなす。目の前のボールを落とさないように打ち返す。その繰り返しで、一日が、一週間が終わっていく。彼らのコップは、日々の業務という水で、もう満杯どころか溢れかえっていたのです。
そんな彼らに、私たちは尋ねてみました。「もし今、新しいことを学ぶ時間があったら、何をしたいですか?」
返ってきたのは、「新しいスキルを学びたい」という前向きな言葉だけではありませんでした。多く聞かれたのは、「まずは、この仕事が自分のキャリアにとってどういう意味を持つのか、ゆっくり考える時間がほしい」「今の頑張りが、ちゃんと未来に繋がっているのか不安だ」という、心の奥底からの切実な声だったのです。
彼らは、学びたくないわけではない。成長したくないわけでもない。
ただ、栄養満点の良薬(新しい学び)を飲む前に、まずは喉の渇きを潤す「一杯の水(心の余裕と、現在地の確認)」を求めていたのです。
この結果を社長にご報告したところ、深く頷かれ、こうおっしゃいました。「そうか、焦っていたのは私の方だったな。武器を渡すことばかり考えて、兵士が疲弊していることに気づけていなかった。導入は少し先にしよう。まずは、彼らが安心して働ける雰囲気を作ること、そして彼らの声をもっと聞くことから始めよう」と。
この社長の決断は、まさに英断だったと私たちは確信しています。
組織開発やエンゲージメント向上というと、私たちはつい何か新しい施策を「足す」ことばかり考えてしまいがちです。しかし、社員のコップが溢れている状態では、どんなに素晴らしい施策も、ただただ流れ落ちていくだけ。
「What(何を導入するか)」を考える前に、まず大切なのは、社員一人ひとりが「Where(今どこに立っていて)」「Why(なぜそう感じているのか)」を、私たちが真摯に「聞く」こと。そして時には、不要な業務や心理的負担を「引く」勇気を持つことなのかもしれません。
新しいカーナビ(ツールや制度)を導入する前に、そもそもドライバー(社員)がどこへ向かいたいのか、そして今、ガソリンは満タンなのか。それを知ることが、エンゲージメントという名の長い旅路の、最も重要な第一歩ではないでしょうか。
皆様の次の打ち手は、新しい「足し算」ですか?それとも、温かい対話という名の「一杯の水」を、社員に手渡すことでしょうか。